HOPE
「なあ、どうして僕に構うんだ? 遅刻するもしないも、人の勝手だろ」
「今、なんて言った?」
 彼女の声はどんどん低くなっていく。
「は? だから遅刻するもしないも人の勝手なのに、どうしてお前はそうまでして僕に構うんだ?」
「それは……お前が、あまりにもダメな奴だからだよ! 宮久保さんが屋上から飛び降りてから、ずっとこんな調子じゃないか! 成績も下がる一方だし、ろくに授業にも参加しないし、それに」
 途中で彼女の言葉が途切れる。
 そして一気に赤面し、僕から目を反らした。
「どうして……沙耶子の事を……」
「まだ……高校に入学してすぐの事だったんだ」

   ♪

 入学して間もない頃の事だった。
 いつもと同じ昼休み、いつもと変わらない友人との他愛のない会話。
 途中まではそうだった。
「平野隼人って子、知ってる?」
 まだ、その頃の私は平野隼人という存在すら知らなかったのだ。
「さあ、知らない。誰?」
「あんまり言っちゃいけないんだけど、先月だったかな。両親を交通事故で亡くしちゃったんだって。高校に入学して早々なのに、可哀想だよね。で、いつも校舎裏で泣いてるらしいよ」
 少しだけ嫌な気分になった。
 そんな話、面白半分でする物じゃない。
「へえ」
 とりあえず、適当に相槌を打った。


 非日常へ行きたかった。
 ただ同じ事を繰り返す毎日に終止符を打ち、何かを変えたかったのだ。
 そして、気が付けば、私にとっての非日常、そう、その子がいる校舎裏に来ていた。
 校舎の物陰に隠れながら、そっと顔を覗かせる。
 木蓮の下に座り、頭を抱えている少年がいた。
 おそらく、あれが平野隼人だろう。
 話し掛けようかと思った。
 でも、何を話せば良い?
 そもそも、私が平野に話しかけたとして、彼はどう思うのだろう。
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