HOPE
「?」
「宮久保さんの目が覚めて、いつかお前と一緒にいられる日が来る事を」
 なぜか、彼女の言葉は確信的だった。
 いや、というより説得力があるとでも言うのだろうか。
「もし、沙耶子が目を覚ましたら、僕と一緒にいてくれるのかな……?」
「たぶん、それはないな」
「え?」
「とりあえず授業にはしっかり出て、勉強して成績を上げて、煙草をやめる。私から言えるのはそれだけだ」
 本当に、彼女の言う通りに事が進む様な気がして来る。
 僕は天道に対して笑って見せた。
 それは本当に久しぶりの、今の僕にとっては精一杯の笑顔だった。
「ありがとう。とりあえず付属は無理かもしれないけど、大学でも目指してみようかな」
「よし! その息だ!」
 天道は高く手を掲げる。
「え、何?」
「ハイタッチだよ! ほら!」
 天道に促されながら、僕は彼女とハイタッチを交わした。




 高校生最後の冬休みが間近に迫っていた。
 僕の周りでは、皆が進路を決め始めている。
 大学へ進学する者もいれば、就職する者もいる。
 僕の場合は進学だが。
 天道に悟られたあの日から、僕は彼女に勉強を教わっている。
 今まで知らなかったのだが、彼女の成績は学年トップだ。
 そんな人に教わっているのだから、とても心強く感じる。
 何もかもが上手く行っている様な気がした。
 しっかりと授業にも出ているし、その甲斐あって成績は天道程ではないが、徐々に上がっている。
 そして、もしかしたら沙耶子の目が覚めるかもしれない。
 そんな淡い期待すら抱いていた。

「起きろ!」
 微かにそんな声が聞こえた、そのすぐ後に頭の上に大きな衝撃が起こる。
「痛ってぇ!」
 慌てて顔を上げると、全訳古語辞典を右手に持っている天道がいた。
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