HOPE
「まったく、せっかくホームルームが終わった後に、急いで学校の図書室の席取って勉強を教えてやってるのに、どうして途中で寝るんだ?」
「ああ、ごめん」
 まだ焦点のはっきりしない目蓋を擦りながら、とりあえず謝罪する。
「そんなに眠いのか? ちゃんと寝てるのか?」
「まあ、一応な。なんか、夜に勉強すると止まらなくてさ」
「凄いな! あの頃のお前が嘘みたいだ!」
 なんだか少し照れる。
「でも、これもお前がいてくれたおかげだから。ありがとう」
 その言葉を聞いて、天道は少しだけ赤面し、参考書に目を落とした。
「そ……そそ、そうか。ああ! そういえば」
 彼女は携帯を開き、時間を確認する。
「先生に呼ばれてたんだ。先に帰ってて良いぞ。それじゃあな!」
 天道はさっさと荷物をまとめて、図書室から出て行ってしまった。
「あいつ……少しだけ性格が丸くなったかも」
 最近、天道を見ていると、そう思う。
「帰るか」
 荷物をまとめていると、先程の古語辞典が僕の教科書の束と混ざっているのに気付いた。
 天道の机の上にでも置いてから帰るか。
 持ち帰るのも悪いしな。
 

 三年生の教室が並ぶ階には、放課後という事もあって、全く人がいなかった。
 受験の近いこの時期なら、学校に残ってる三年生なんて、何か用のある人くらいだ。
「良かったわ。あなたのおかげでクラスの問題子がいなくなった」
 準備室の前を通り掛かった時、中から琴峰の声が聞こえた。
「……そんな、問題児なんて……」
 天道の声がして、僕はその場で足を止めた。
「あら、言い方が悪かったかしら。でも、あなたのおかげよ。そろそろ、あなたが二年前にした事も、あなた自身の事に関しても考え直さないといけないわね」
なんだ? これは……。
 担任と天道の会話を聞いて、ある考えが頭の中に浮かんだ。
 天道が僕に近付いた理由。
 それは担任に何かと引き換えに、頼まれた為。
 僕は、始めから利用されていた。
 天道は僕の事を信じてなどいなかったという事に、やっと気付いた。
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