HOPE
 とにかく全てが嫌になった。
 フラフラと何時間か街を彷徨っていると、空はすっかり暗くなっていた。
 道を照らすのは、端に取り付けられた街灯くらいだ。
 孤独。
 そんな感じがした。
 携帯を開くと、時刻は深夜の一時を回っていた。
 そして、メールが三件。
 それらは全て、天道から送られた物だった。

 一件 私の古語辞典がないんだが、知らないか?

 二件 おい、無視するな!

 三件 大丈夫か? 何かあったのか?

 携帯を強く握りしめた。
 みしみしと、今にも砕けそうな音が鳴る。
「どうして……」
 天道は僕を利用していただけなのに、どうして僕なんかの心配をするんだ。
 
 数回のコールが耳元で鳴る。
 僕は無意識のうちに、天道に電話を掛けていた。
 コール音が途切れ、彼女の声が聞こえて来る。
「もしもし? 平野?」
「……っ……っ、っ」
 彼女の声を聞いた瞬間、声が出なくなり、電話を切ってしまった。
 どうして?
 いつも普通に話しているのに。
 
 もしかしたら、もうダメなのかもしれない。
 両親を亡くして、大切な人を手放して、信じていた人に裏切られた。
 もう嫌だ。
 いっその事……。
 赤い光が視界に入る。
 それと同時に、カンカンカンと耳に響く音がしている事に気付いた。
 目の前には発光ダイオードを赤く光らせる踏切がある。
 辺りを見渡して、人がいない事を確認すると、僕はそこへ進んだ。
 ふらふらした足取りで線路の真ん中に立ち、ゆっくりと目を瞑った。
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