幻獣のタペストリー ~落ちこぼれ魔導士の召喚魔法~
その夜――

何かが顔に触れる気配で、あたしは目が覚めた。


いつもなら真っ暗なはずの室内が、ぼんやりと明るい。

怪訝に思って明るい方に目をやると、赤い光を放つトカゲのようなモノの姿が目に入った。


やっぱり、サラマンダーだわ。


サラマンダーはあたしを見上げると、『ついて来い』とでも言うように尻尾をクイッと曲げ、ドアの下の隙間から出て行った。

部屋の反対側からジェニスタの寝息が聞こえる。

起きる気配はなかったけれど、あたしは音を立てないように、裸足のまま足を床に下ろした。

寝室のドアをそっと開けるとサラマンダーが待っていて、また尻尾で合図をするとススッと行ってしまう。


サラマンダーを追って瑠璃宮を出て、礼拝堂への回廊に足を踏み入れた途端、あたしは誰かに腕を掴まれ壁側に引き寄せられた。

悲鳴を上げかけた口を、背後から大きな手が塞ぐ。


「静かに」

耳元で囁かれた声は、よく知った人のものだった。

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