海までの距離
「俺、数時間前にメールしたんだけど返信ないからさ。勉強してんのかなあとは思ったんだけど、ちょっと顔見て行こうと思って。真耶ちゃん、いつも学校で勉強してるって言ってたし、取り敢えずM高行ってみるか!って」
初めて会った時は私のことを“女子高生”とばかり呼んでいたから、その声で名前を呼ばれるのは2度目。
くすぐったいような違和感がある。
それ以上に、「顔を見て行こう」だなんて、どういうこと!
きっと深い真意などないんだろうけど、さりげないその一言で私は天にも昇る心地。
そして、あれだけメールを重ねていたのに、いざ顔を会わせると緊張して緊張して。
コーヒー牛乳が吹き出すんじゃないかというくらい、震える両手で紙パックを握った。
「まさかの偶然ですね…」
「ほんとだ。見事な偶然」
へらりと緩く笑う海影さん。
こうして対面に立って初めて気付いたけど、影さんって、意外と背が高いんだな。175センチくらいはあるかな。
「受験生は、もうちょっと勉強頑張ってから帰るのかい?」
「いえ、そろそろ帰ります」
「じゃあお兄さんが送ってやろう」
「いいんですか!」
私が食いつくように返答をすると、海影が「おう」と軽快な返事をする。
「あ、でも自転車で通ってたんじゃ…」
「学校に置いて帰ります」