海までの距離
きっぱり言い放つ私に、海影さんが声を立てて笑った。







図書室から大急ぎで鞄を持ってくる。
もっときちんと化粧してくれば良かった。今日はマスカラ塗っているだけで付け睫毛もしていないし、肌の手入れだって、今晩しようと思っていたから放置状態。
トイレに立ち寄って、グロスを塗りビューラーで睫毛を押し上げて、簡単に化粧直し。
玄関に行くと海影さんは既に運転席に戻っていて、私を助手席へと促した。


「シートベルト締めろよー」


海影さんの台詞に、あの日の夜のことが蘇る。
相変わらず車内は雑然としついて、煙たさもあの日と全く同じ。
違うのはBGMくらい。


「あ、Cureだ」


私が呟く。


「Cure、知ってるの?」


意外そうな表情で、海影は私の方を向いた。


「たまに聴くくらいですけど…UKロックは好きです」

イギリスの音楽はいい。
情緒があって、音が綺麗。
何を言っているか把握しきれない英語の歌詞さえも、呪文みたいで聞いていて飽きない。
(仮にもM高の生徒が「英語の歌詞が分からない」なんて情けないか)


「まだ若いのに流石だね。ただただジャパニーズバンドマンにきゃあきゃあ言ってるだけじゃないんだ」

「ジャパニーズバンドマンにきゃあきゃあ言うのがメインですけどね」
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