海までの距離
海影さんに対してそんな冗談を言う余裕まで出てきた自分に、我ながら驚きだ。
ほんの少し前まで、メールすることでさえ手が震えていたと言うのに。


「はは。でもきちんと音楽も聴く女の子はなかなかいないよ」


海影さんは私のこと、買い被りすぎなんじゃないかと思う。
エンジンをかけると、海影さんは少し考えた様子で、


「ちょっと遠回りしてもいいか?」


私にそう切り出した。


「大丈夫ですよ」

「有難う。ここから橋渡って海岸線沿いから行きたくてさ」


M高のすぐ近くにも、信濃川に架かる昭和大橋がある。
車はその橋を渡っていった。


「どう?勉強は順調?」

「あまり…。なかなか成績上がらないですし」


海影さんの前で、弱音を吐きたくはなかった。
だから私は苦笑いでそう答える。


「推薦とかは?」

「私の学力じゃ、とてもとても!」


首をぶんぶん振って、海影さんの言葉を遮った。
推薦を受けられる程の成績だったら、とっくにその手段を選んでいる。
無理して進学校であるM高に入ったつもりはなかったけれど、周りの子達は私なんかよりずっと頭が良かった。
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