海までの距離
私はどんどん置いてけぼりを喰らって、いつしか勉強に対して薄れる意欲。
「赤点さえ取らなきゃいいや」なんて甘いことを考え始め、それでも赤点を取る始末。
それでも、大学は行きたいと切に思っていた。
高校に入学して、ずっと。
そう思うのは、M高に進学したんだからというプライドと、親への顔向けができなくなってしまうから。
そんな理由でも、私を受験勉強へと駆り立てるには十分な動機となった。


「…海影さんは、いつからバンドやってたんですか?」


橋を渡り切り、赤信号で停まったのをいいタイミングと、私はそんなことを尋ねていた。
海影さんは前方を向いたままで、赤信号のライトが海影さんに陰る。
海影さん、本当に華奢だな。女の私なんかよりか細い。
折れちゃいそう。


「高2の夏。俺も、それまでは大学目指して勉強してたっけ」


海影さんは煙草をくわえ、火をつけた。
そして窓を10センチくらい開け、ふーっと外に煙を吐き出す。


「最初はほんの遊びのつもりで、同じクラスの友達に誘われてバンド組んだんだ。でも、全然楽器なんて弾いたこと無かったし、弾けなかったし。これでも案外真面目にテスト勉強したりしててさ」
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