海までの距離
信号が青になり、海影さんが車を発進させた。
私は海影さんの整った横顔を見つめながら海影さんの話を聞く。
風が頬に冷たく当たっては、流れた。


「だけど段々ベースが弾けるようになって、今まで部活とかにも打ち込んだことがなかった俺は、気付けばすっかり嵌まってた。最初のバンドは半年くらいで解散したけど、すぐに新しいバンドの話が来てね」

「LOTUSですか?」

「知ってる?」

「有名だったじゃないですか。私は、観たことなかったけど…」


LOTUSのライブを観なかったことを、ひどく後悔した。
自分と同じくらいの歳でLOTUSのベーシストを勤めた海影さん。
高2でLOTUSを組んで、LOTUSは3周年を迎えて解散し、それが去年の冬のこと。
海影さんは今20歳か21歳ってことか。
計算が合っていれば、私と海影さんは3歳差ということになる。
3歳離れてるだけで、こんなに大人びたことを話せるんだろうか。
自分の3年後の姿なんて、想像できない。


「高3になる前にLOTUSを組んで、俺の頭の中にはもうすっかり大学だ勉強だ進学だなんてすっ飛んでた。俺以外のメンバーがベテラン揃いだったこともあって、LOTUSの名前はすぐに知れ渡ったし、それについていかなきゃと必死で。親に就職しますって話した時、母親に泣かれたなあ」
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