飛べない黒猫
「あのね…洋子お母さんが買ってくれたの。
お洋服と、これ…」


「真央ちゃんも16歳。
オシャレもしなくっちゃ…
今時の女子校生なんて、バッチリメイクして、髪セットして…すごいのよ。」


真央はリップのキャップをあけて、まだ真新しいツヤツヤとしたオレンジ色の中身を蓮に見せた。


「女の子の集団の中に行くわけでしょ…
ドキドキするわよね。
そんな時、少し着飾って可愛くして、リップなんかつけちゃうと…
ほんの少し自分に自信が持てるのよ。
これって、けっこう重要なんだなぁ。
ちょっとの自信が、有るのと無いのとでは、全然気分が変わるのよ。」


「…そんなもん?」


「男の君には、わかんないだろーなぁ。
女の気持ちは複雑なんだから。」


そう言って洋子は真央に微笑んで、キッチンに引っ込んだ。


「つけてみたの?」


蓮の問いかけに、真央はぶんぶんと首を横に振る。


「母さんも、あぁ言ってるし。
つけてみたら?」


「…うん。」


真央は顔を赤らめて、リップを唇に塗った。

艶やかに、ほんのり色づく唇。


「いい色だね、真央によく似合うよ。」


真央は真っ赤になって照れて、それでも嬉しそうに笑った。


「…ありがとう。」


「もう1コの、それは何?」


蓮は銀色に輝くスティックを指差した。
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