飛べない黒猫
外は、すっかり冷え込んでいた。

雪はまだ降っている。
たった数分間、外気にあたっただけなのに、ほんのりと残っていた酔いも一気に冷めてしまった。

走り出したタクシーの窓から外を眺める。
薄暗く静かな住宅街を抜けると、一転して色鮮やかなクリスマスのイルミネーションが点灯し、街並みは明るく活気付いていた。


「蓮、今日はありがとね…」


洋子の静かな声。


「あぁ…、でも正直、驚いたよ。
母さんは知っていたんだろ?事件の事。
事件があった時には、もう、青田さんと知り合っていたの?」


青田と蓮が話しをしている間、洋子はずっと黙っていて2人の会話を聞いていた。
驚いたり動揺した様子はなかった。


「事件のだいぶ前からの知り合いだったわ。
仕事の取引先きだったの、お得意様。
事件の前も、後も、ずっと仕事上での付き合いだったんだけど…
そうね…
親しくなったのが、3年くらい前からかな。」


「そうなんだ…。
全部理解した上で、母さんが決めた事だから。
俺は別に、反対するとか無いよ。」


「…うん。」


「どうにか1人でやっていけるようになったからさ、俺のことは気にしなくていいよ。
これからは、自分が思うようにやっていったらいい。
母さんは、ずっと、苦労してきたんだ。
…幸せになって欲しいと思ってる。」


「……うん。ありがとう」


洋子は涙声で頷いた。


カーラジオがらは、クリスマスソングが流れていた。
古いレコード盤の独特の雑音が、古き良き時代の哀愁を感じさせる。

座席シートに頭を預けて車の揺れに身を任せた蓮は、青田の娘…真央の事を思い返していた。


まだ幼い。
しかも情緒が不安定な状況で、どこまで父親の再婚を理解できているのか…

彼女の事情と状況を聞いてしまった蓮は、真央に同情していた。




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