飛べない黒猫
「そうですね。
真央さんは僕と目が合うと、ひどく混乱していました。
僕には火傷の跡があるし、髪や目も色が違うから驚くのは分かりますが…
あれほど激しい反応をされたのは、初めてです。」


青田は姿勢を正して頭を下げた。


「不快な思いをさせてしまいましたね…
申し訳ない。
誤解しないでいただきたいのですが、真央の過剰な反応は蓮くんだからという訳ではないのです。
今でこそ普通に接していますが、和野さんに対しても馴れるまでは、かなりの時間がかかりました。」


そう言ってポケットから新聞の切り抜きを出し、蓮の方に向けて広げた。

大きな見出し【強盗犯と鉢合わせ2人死亡】
“母の愛、子を守る”
一面のトップ記事だった。


「強盗が入ったんです…家政婦を殺し、室内を物色している時に、私達は家に戻ってしまったのです。
妻と娘を玄関で降ろし車庫に車を入れていた時、娘の叫び声を聞きました。
尋常でない娘の悲鳴に驚き居間にかけ込むと、喉から大量の血を流し、家政婦がぐったりと倒れていました。
その奥で、真央を抱えるようにして妻がしゃがみ込んでいました。
……妻の背中は見る見るうちに真っ赤に染まっていきました」


組んだ手が微かに震えている。
目の前の新聞の切り抜きに漠然と視線を落とし、擦れる声を絞り出すように話しを続けた。


「真央はショック状態で…
真っ青になって、泣くことも出来ずに震えていました。
私達の必死の願いも虚しく、病院に着いた時には、もう、妻の心臓は止まっていました。」


なんて事だ。

新聞の活字を目で追う。
逃走した犯人は40代で2人組の男…


「犯人は3日後に捕まりました。
玄関に取り付けていた防犯カメラの映像が決め手になったようです。
強盗目的でした。
犯人は、大声をだされ、顔を見られたので殺したと自供したそうです。」


深く溜息をついた。


「その日からです。
真央は言葉を発しなくなりました。」


「そして、人に対して…特に男性に対して…の恐怖心がトラウマとなって、心だけでなく体をも蝕んでいるのですね。」


蓮の言葉に青田は力なく頷いた。
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