飛べない黒猫
店内は思ったほど混んでいなかった。

ひと組の若いカップルと女性同士の2人連れが、狭い店内の壁や棚にディスプレイしてあるアクセサリーを眺めていた。

洋子に挨拶した若い女性の店員は、カウンターの奥の扉を開けて何か言っている。
直ぐに部屋の奥から30代半ばの小柄な男性が、にこやかに箱を持ってやって来た。


「お待ちしてましたよ、大島さん。」


「可愛く出来ているかしら?」


「自信満々です。」


開けられた箱の中には、小さな赤い革製の首輪。
それと、おそろいの赤い皮で作られた猫型マスコットのストラップがあった。


「かわいいっ!イメージ通りよ。
さすがだわ…ありがとうございます。」


「猫の首輪なんて初めてですよ…
猫ちゃんが気に入ってくれればいいのですが。」


男は赤地に金のラインが入った包装紙を出し、手際よくラッピングしはじめる。



その間、蓮は棚に飾られたアクセサリーを眺めていた。
小さな白い石のペンダントに目がとまる。

【ムーンストーン】


説明が書かれている。

【月の光を宿した石。古くから神秘的な力を秘めた石として人々に愛されている】

手にとって陽にかざすと、青みがかった白色の不思議な輝きがあった。



「パワーストーンと呼ばれる天然石ですよ。
ムーンストーンは身につける事により、悲しみや怒りで波立った不安定な感情を鎮め、心を浄化します。」


さっきまで奥のカップルと話しをしていた女性店員が、蓮に声をかけた。


「天然石?」


「そうです、和名では【月長石】といいます。
2つの成分が交互に重なり合い薄い層をつくっていて、研磨すると2つの成分が反射しあって、真珠のような柔らかい光を放つのです。」


「そう…キレイだね。」


蓮は、そっとペンダントを戻した。

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