飛べない黒猫
女の子というものは、こうも変わるものなのか。

3週間前には少年と見間違えた。

それがどうだ、
どこから見ても、立派に完璧な美少女だ。

蓮は感心する。



女性らしいラインのワンピースが少女を変えたのか。

服装で印象は変わる。
でも、それだけじゃない。

見た目だけではないのだ。
内からにじみ出るオーラというか、フェロモンというか。

それは、きっと、とても微量なのだろう。
だが、その微量な量でも、有ると無いとでは雲泥の差なのかもしれない。

女性らしい物を身につけると、無意識にでも脳は自覚する。
それが体の奥底に眠っている、種の保存というDNAを目覚めさせるのだろうか。

人類が始まってからずっと、あらゆる生物は自らの魅力を引き出し、異性を引きつけ、子孫の繁栄を繰り返してきたのだ。

当然だ、引きつけなければ、種はそこで終わってしまう。




レモン入り炭酸水で乾杯する真央自信は、自分の中で起きている変化に全く気づいていない様子。
服装や身につけている物を気にする素振りが全く無い。

まだ子供と大人が混ざり合っている年頃だから、自覚が無いのは無理もない。



驚いた事に彼女の変化は、それだけではなかった。

不安そうにうつむきながらも、時々顔を上げて周りの様子をうかがっている。
自分も、この新しい人間関係の和の中に馴染もうとしている姿勢が強くうかがえるのだ。

蓮は真央が自分を見つめる視線すら感じた。
もちろん、視線は合わせないように上手くそらせる。


まるで、人になついていない猫と一緒だと思った。

こちらから、手を伸ばしてはいけない。
そうすると猫は威嚇し、警戒して、素早く逃げてしまうのだから。

自ら近づいて来て、匂いをかいで、警戒心を解いて、やっとペロペロと舐めてくる。
そこで、はじめて猫の頭や喉を撫でる事が許されるのだ。


それまでは、気長に待つしかない。


今、真央を見つめたり、話しかけてはいけないのだ。
前回のような状況は避けなければならないから。



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