飛べない黒猫
朝、起きるとメールをチェックする。
会社を辞めて独立してからの1日の始まりは、これが日課となっている。

と、いっても…もう昼になろうとしているが…

仕事の依頼や、請け負った案件のデーターのやり取りで、大概2〜3件は入っている。


その中に、真央からのメールがあった。






件名 行きたいところ
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花火が見たいです。
夏祭りの。

浴衣を着て下駄を履いて。

そこで綿飴とか、チョコバナナを食べたいです。


人がいっぱいでも平気になりたい。








真央は一歩踏み出そうとしている。
変わりたいのだ。

幼い頃から家の中に閉じこもりっぱなしだったんだ。

楽しい四季の行事に惹かれながらも、楽しむことが出来ずに寂しい思いをしていたのだろう。



今年の夏は、必ず花火を見に連れて行ってやる。
かわいい浴衣を着せて、縁日の屋台を全部まわるのだ。




部屋のカーテンを開ける。

明るい穏やかな午後の陽射しを浴びて、蓮は外の景色を見た。

クロオが庭を横切って行った。

そのまま塀に近づき、ヒラリと飛び上がり塀の上に立つ。
辺りをうかがって安全を確認して、塀を乗り越え門の外へと消えていった。


もともと野良猫だったクロオは、安全で退屈なこの屋敷を抜け出して、時々サバイバルな探検を楽しんでいるようだった。




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