飛べない黒猫
真央は、ただ無心になって没頭できるこの作業が好きなだけだった。
作業が細かく繊細になればなるほど、周りの事も自分自身の事も全て忘れ集中できた。


現実逃避なのかもしれない。


だが、小さなガラスのカケラを1つ1つ組み合わせ、それが美しい模様になり絵になっていく工程には、言い表せないほどの充実感と達成感がある。

だから、それを求めて、また作り始めてしまうのだ。

ただ、それだけだった。




「真央ちゃん、これ見て。」


蓮がプリントアウトした用紙を持って戻ってきた。


「日本芸術展だって…。
2月14日締め切り…もうすぐだ。
えーっと…未来をになう国際作家の発掘・育成と日本美術の普及による文化交流図る…だって。
ま、面倒くさい事は考えない。」


真央の顔が不安で曇る。


「これ、プロとかも出展する大きなコンクールだから。
残念だけど、入選とかは、かなり難しいね。
でもね、こーゆーのに参加して、社会と関わるって事も良いと思うよ。
なにごとも経験だからね。」


椅子に座っている真央の前にしゃがみ込んで、蓮はじっと見つめた。



蓮の緑の瞳は魔法の目。
真央を闇から引き上げてくれる目。
…わかってる。


真央は蓮の瞳を見たままうなずく。

蓮の瞳の奥にキラリと光が差す。


「よし、じゃあ、あとは俺に任せて。」


蓮は優しく微笑む。


「真央ちゃんが、美しいステンドグラスを見て興味を持ったように、真央ちゃんの作品を見て誰かが影響を受けるかもしれない。
そうやって出来た繋がりって宝物なんだよ。
きっと、真央ちゃんもそれが分かる日が来るよ…」


真央は自信なさげに、力なく笑った。
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