飛べない黒猫
目が覚める。
青白い月明かりが辺りを照らしている。


モゾモゾと足元で動くクロオに起こされ、夢の中が現実に切り替わる。
最悪の記憶を思い出すのには数秒あればよかった。



真央は、ベッドの隅に上半身を乗せて、両腕に頬を置いて眠っていた。

起こさないように、ゆっくり起き上がり、静かに毛布かけた。



真央の手に目が止まる。
何かを握りしめているようだ。

目をこらし覗き込むと、右手に握られているのは、ムーンストーンのペンダントだった。
さっき、これを握って、蓮の背中をさすっていたのだ。


蓮は真央の、まだあどけない寝顔を見つめた。


優しい子だ。
俺の苦しみを癒そうと、ずっと石を当てていたのか…


針のように鋭く刺さり、キリキリと締めつけられていた心の痛みが、鈍く鈍感な痛みに変わる。

真央に救われている。
蓮は実感していた。


寝ている間に、確かに真央は、蓮のこころの苦しみを癒してくれたようだった。


“石じゃないよ…”


規則正しい寝息をたてる真央に、蓮はささやく。


“君の手の温もりが俺の痛みを和らげたんだ”


蓮の指先が優しく真央の頬に触れた。


“どうやら孤独というモノが人の心をすさませる。
君の無垢な愛情が、俺を孤独から救ってくれているようだ”



頬にそっと触れた指を離して、静かに机にむかう。


スリープ状態のパソコンを動かし、検索サイトを開いた。
26年前の事件。

ヒットするかは疑問だったが、真実を確かめずにはいられなかった。



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