飛べない黒猫
“俺の中に渦巻くモノは何だ…”


蓮はベッドに倒れ込み、左手を強く握りしめて思いっきりスプリングマットを叩く。

母親の心と体、そして将来までも踏みにじり、欲望のはけ口とした卑しい行為に憎しみが増す。


“だが、その卑劣な変態野郎である犯罪者の血が、俺の中に流れている。”


反吐がでる。


“なぜ俺の身体なんだ。”


犯罪者の汚れ穢れた血が、自分の身体の中に流れているのかと思うと、激しい怒りが湧き起こる。

そして、重い十字架を背負わせる事を承知で産んだ母親にも苛立った。

変えようがない事実が深く蓮を絶望させる。



力なくベットに横たわった時、足音か近づく音がした。

静かにドアが開き、誰かが部屋に入ってくる。



背を向けて横たわる蓮の傍らに座り、そっと背中をさすってきた。
クロオがニャアと鳴いてベッドに上がり、蓮の足の甲に柔らかい毛があたった。


真央だ…


真央に、出て行けと怒鳴る事はできない。
蓮は背を向けたまま無言でいた。

今は誰とも話したくない、一人にして欲しかった。


真央は蓮を心配して様子を見に来たのだろう。
荒れてないと分かれば、そのうちに出て行くはずだ。

背中を向けたまま、蓮は横たわっていた。


真央の手は、ぎこちなく背中を撫でている。
蓮はふと、背中をさすられて眠りについた、昔の記憶を思い出す。


そう…子供の頃だ。
風邪をひいて咳が出て、苦しくて眠れない夜に、母親が背中をさすってくれた。

蓮が眠るまでずっと。

母親がさすると、苦しかった呼吸が嘘のように楽になった。
辛さと心細さも消え、安心して眠った。

あの時のようだ…

蓮は目を閉じた。
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