飛べない黒猫
部屋に戻ると蓮は起きていて、パソコン画面を前にキーボードを叩いていた。

食事を運ぶ真央に気づき、ゆっくりと顔を上げた。


「おはよう。」


穏やかな声…口元に笑みを作るが、緑の瞳の奥には悲しみの陰りがある。


「いい香りだ…
真央ちゃん入れてくれたの?」


こぼさないように慎重に盆を床に置いてから、真央は蓮を見て微笑んだ。


「ありがとう。」


蓮は机を離れ、盆をはさんで真央と向かい合って床に座った。

左手でカップを持ち、顔に近づけ香りを嗅いでゆっくり一口啜る。


「ん…!」


蓮は、カップに口をつけたまま小さく声を出した。

真央も“えっ?”と表情で返す。


「美味しい…」


蓮は少し笑って言った。
顔色は良くない…


「ずっと、そばにいてくれてたんだね。
そのおかげで、朝になったら少し元気になったよ。」


真央は蓮を見つめる。

蓮の父親は、ひどい人なのかもしれないけれど、そんなのどうでもいい。
彼に対する気持ちが全く変わらない事を、なんとかわかって欲しかった。


サンドイッチの上にあるメモを取って、蓮に差し出す。


「…あぁ、わかってる。
彼女を責めるのはお門違いだ。
彼女が俺を殺さずに…中絶せず産んでくれたから、今の俺がいる。
わかっている…」


蓮の瞳の色が暗く淀んだ。




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