I LOVE YOUが聴きたくて
怜樹は、今は、誰の声かけにも耳を傾ける気分では全くなかった。

持ち前の精神は、喪失していた。

怜樹は、老人の声かけに、応じられずにいた。

老人は、怜樹の様子を察した。

「そんなに…。何かあったのかい」

老人は、一鈴の、掌サイズの小さな鈴太鼓を、テラスの扉辺に、そっと置いた。

「我が家で、昔から伝わる鈴太鼓というものじゃ。気が向いたら、鳴らしてみなされよ。幸福を呼ぶのじゃ。心にゆとりを与えてくださる、そういう鈴太鼓じゃ」

老人は、微笑んで、静かに去っていった。


怜樹は、また、ひとりになり…。


テラスの際に、そっと置かれた、鈴太鼓を見つめていた。

雲に隠れ、さっきまで曇だったのに、太陽が顔を出し、テラスからアトリエに、日差しが差し込んできた。

まっすぐな日差しが、鈴太鼓を照らした。

鈴太鼓に付いてある金色の小さな鈴が、太陽の日差しを浴びて、光輝いた。

冬に、肌寒い中の、久しぶりに明るく差す太陽の光。

風景が明るくなったことで、怜樹は、一瞬、心が変わった。

本来の前向きな性格が顔を出す。

怜樹は、ゆっくりと立ち上がり、テラスに歩みを寄せた。

そして、老人が置かていった、鈴太鼓を手に取る。

少し、鈴を鳴らしてみた。

怜樹は、素直に鳴らした自分に苦笑いをして、鈴太鼓を、そっとテーブルに置いた。
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