I LOVE YOUが聴きたくて
怜樹は、苛立っていた。
だが、理性が働き、その苛立ちを抑えようとしていた。

「真剣なんじゃよ」

老人は、そっと呟く。
「僕は、まだまだ子どもかなぁ…」

老人は、黙っていた。
そして、海を見ている。

怜樹は、そんな老人を見つめていた。


そして、怜樹は、老人の隣に腰をおろした。


老人が、口を開く。


「今日は、少し穏やかじゃのう。昨日は荒れていた。明日は、また、荒波かもしれん」


怜樹は、老人が何を言おうとしているのかわからず、黙って、ただ、聞いていた。

「だから、面白い。毎日毎日同じ、静かな海を見ていても飽きることはないとは思うが、いろんな表情の海があるから、絵描きさんも、描くのが面白い。そうじゃないかい」

「あぁ。なるほど。はい、そうですね」

「生きているんじゃ。生命の息吹じゃよ。岸壁に打ちつけて弧を描く、激しい荒波の絵かんぞは、わしゃ~、大好きじゃ。わしの魂も奮えて、身震いがしてくるぞ」

「はい」

「生きているんじゃよ。笑うばかりじゃない。泣きもする。怒りもする。苛立ちもする。人間は、いつも同じではない。ロボットとは違うのじゃから。生きているんじゃよ。真剣なんじゃよ、絵描きさん。悪いことではない」

「そっか…」


怜樹は、目を落とした。

「うん」

怜樹は、自分で自分に頷いた。
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