【BL】風鈴が鳴る頃に[短編]
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近くに行ってみるとまた違う景色が見えてくる。物凄い人の数だ。
小さい子がこの中を逸れたら大変だよなぁ……なんて、物騒な事をつい考えてしまう。



「依乎は何食べる?俺はやっぱ焼きそば!!」


「じゃあ俺も焼きそばにしよっかな……」


「んじゃあ俺が奢るっ」


妙に押しが強い律に負けた俺は「ありがとなっ」と律に一言伝えて、素直に待ってる事にした。ちなみに諒と田中は、お好み焼きの所に並んでいるみたいだ。


一人になると何だかぼんやりしてしまう。俺は今、祭りと言う夏らしい空間にただ酔っているのかもしれない。




ふと俺の視界に、一人の青年が映った。一人だけ、祭りという空間にも流されない強い瞳。黒い艶やかな髪は少し藍色がかっていて、闇の光さえ吸収して輝いている。



しばらく眺めていた。一度視界に入れるとあんなに目立つのに……。周りは彼を気にかける様子もない。



俺は正気に戻り、頭を振る。
少し離れていたし、相変わらず周りは賑やかだったから、きっとあの人にも気付かれてはいないだろう。


ーー不思議な人。
それがぴったりと当てはまって、何だか少し可笑しくなった。


まっ、もう見かけることもない人だ。気にする必要もない……か。



しばらくすると律が帰ってきた。諒と田中もこっちに戻ってくる。

ちなみに俺は今サッカーボールを抱えている。律が夜のサッカーはテンションが上がるとかで、全く困ったものだ。


***


俺らはその後も祭りを存分に満喫した。律はちゃっかり、金魚すくいで金魚を5匹も取っている。


袋の中で金魚が、困惑したように袋の中を往復しているのを眺めながら、コイツらの飼い主になるアイツのことを考える。


「ねぇ、金魚見に来る?」なんてしばらくしたら招待状を渡されるかもしれない。


(いや、それはリアルでどうでもいい……!!)


そんな事を考えていると、袋の中の金魚達はますます混乱したように、小さな口をパクつかせた。
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