慟哭の彼方
そうか、以前襟首を掴まれた時。
俺はその剣幕に怯えることしかできなかったけど、彼は彼女を守ろうと必死だったんだ。
自分にできる精一杯でチェルシーを守りたかったんだ。
なんだ、結構いい人じゃん。
それまで抱いていたイメージを取り払い、彼は微かに微笑みながら店を出ていった。
ここまで立て続けに来客が来たら、願い事の続きなんて言えるわけもなかった。
だけれどもうこれ以上客は来ないはずだ。
だって近頃依頼をしに来たのはあの2人と、もう1人。
そしてその1人は…。
「……」
陰鬱な空気はなかなか破られないまま、彼は今日何度目かのため息をついた。