慟哭の彼方
そう思っていたのにドアが開いた時、アルスは自分の耳を疑った。
さっき来たどちらかが戻ってきたのだろうか。
それとも新しい依頼人だろうか。
彼の予想はどちらも外れることになる。
「こんにちは」
頭の中で引き出しが開き、閉じ込めようと努めていたものが溢れ出す。
マイラスが去っていったすぐ後にここを訪れた青年だった。
気付かれないように歯を食いしばり、彼は爽やかな笑顔を作る。
「何か御用で?」
刺々しい声になっていないことを祈る。
隣にいるチェルシーは無表情だが、その頬は明らかに強張っている。
話を長引かせるとまずいことは嫌でもわかった。