慟哭の彼方


そう思っていたのにドアが開いた時、アルスは自分の耳を疑った。

さっき来たどちらかが戻ってきたのだろうか。
それとも新しい依頼人だろうか。

彼の予想はどちらも外れることになる。



「こんにちは」

頭の中で引き出しが開き、閉じ込めようと努めていたものが溢れ出す。

マイラスが去っていったすぐ後にここを訪れた青年だった。


気付かれないように歯を食いしばり、彼は爽やかな笑顔を作る。

「何か御用で?」

刺々しい声になっていないことを祈る。

隣にいるチェルシーは無表情だが、その頬は明らかに強張っている。

話を長引かせるとまずいことは嫌でもわかった。


< 113 / 126 >

この作品をシェア

pagetop