片翼の天使(短)
『ねぇ、メタトロン。私達は禁忌を侵しているわ。天使と人間は本来、別の世界に住む者。それが、関わり合ったり、愛し合うなんて、絶対にあってはならないこと。私は罰を受けることを恐ろしいとは思わない。けど、あなたが罰を受けるのは、絶対にイヤなの。あなたには健やかに笑っていて欲しいから…。』

そう言って天使に背を向ける。

天使も辛い顔をしてる。

『ユリアは俺を愛してないの?』

女の人は振り返り答える。

『愛しているから、私達は一緒にいてはいけないの!私が神から頂いた命を全うし、尽きた時、天に昇る。そしたら、また逢うことができるでしょう?』

天使の表情が険しく変わる。

『ユリアは分かってない。人の魂には形がないんだ。確かに下界に留まる魂もあって、その魂は生前の形を維持しているかもしれない。でもそれは、まだこのままでいたいという念がそうさせている。もしユリアがユリアでいたいと願うなら、君は下界に留まり苦しみを味わうことになる。俺とも会えない。
かといって、君が天に昇ったとしても、人間の魂が向かう先は、天使の宮とは別の所なんだよ。だから、今じゃなきゃダメなんだ。
別に、罰なんか怖くない…。』

2人の間に沈黙が流れる。
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