片思いの続きは甘いささやき

「・・・そのお見合いで、俺は捨てられたんだよな」

苦笑しながらの喬の言葉に、一瞬苦しそうに顔を歪めた悠里。
ほんの一瞬の表情の変化に、喬は違和感を覚えた。
それでもすぐに明るい笑顔に戻った悠里に何も言えずにいる。

「お見合いは、ラッキーだった。
私を一番に愛してくれないって宣言する恋人から離れるいいきっかけで。
別にお見合いですぐに結婚を決めようなんて思ってなかった。
喬から離れられればっていう思いだけでさ・・・」

「悠里・・・?」

ほんの少し変わった声音は悲しく切なく重い。
ふざけた口調から変わってしまった悠里の様子に、それまでわかっていながら隠していた二人の想いや感情が、喬の胸に広がる。

「透子に片思いしてるだけなら、寄り添えた。
喬の事が好きだったから。ずっと傍にいたかったしそのポジションを他の女に譲るなんて考えられなかった。

でも、変わったから。

喬の気持ちが透子以外の女に移ってしまったって気づいたら」

ふうっと苦しげに息を吐いて、少し潤んだ瞳。
諦めや後悔も含むような瞳。

「邪魔はできないって思った」

透子の設計デザイン大賞の授賞式で雪美に出会って。

多分お互いに一目ぼれ。

透子だけに向けられていた強い感情は愛情と共に雪美へと向かうようになった。
それまで女に対して守られていた優しく距離を置くという喬の恋愛の仕方が嘘のように。

まるで捕まえるまで諦めないというように雪美との距離を詰めるのを感じていた。

「喬の恋人だけど・・・愛されてるわけじゃなかったから。
喬が本気で好きな女ができたんなら太刀打ちできるわけないし。
別れるしかないかなって思って・・・喬ともう一人・・・雪美さんの幸せを邪魔できないって思ってお見合いしたの」

「雪美の事・・・なんで・・・わかった?」

「ま、女の勘?」

「俺のせいでお見合いしたのか?」

軽い話しかしなかった元恋人。悠里の告白は、喬の気持ちを罪悪感で揺らすくらいには十分パワーがあって、悠里が突然別れを切り出した三か月前を思い返してしまう。

それまで喬のそばで恋人として笑っていた悠里の突然の別れと結婚宣言。


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