片思いの続きは甘いささやき
「雪が真田さんを見る顔を見ればすぐにわかるさ。
あの日…透子の授賞式で
じっと見てる…つらそうな顔見て気づいてたんだけどな」

囁く喬の声は、乾いたようにうわずっていて雪美には何だか痛かった。

「喬…それ…ちょっと違う…」

「何が?ずっと真田さんに焦がれてたんだろ?」

「それは…そうだけど」

否定はできない事に雪美はもどかしさを感じる。
10年以上の片想いを嘘でごまかすなんてできない。
濠への気持ちは過去のものでも、大切にしたい過去だから。

雪美の逡巡する想いを勝手に誤解したように、喬はあからさまにため息をついた。

「…俺に抱かれながら、誰を想ってた?

人のもんになった男でも考えながら抱かれてたか?」

落とされた喬の低い声に雪美の体は一瞬にして固まってしまった。

「な…何…?
何を言ってるの?」

淡々となってしまう声を気にする事も忘れて問い掛ける雪美に、眉を寄せて苦しい顔をして…。
喬は何も言わなかった。

「本当にそんな事思ってるの?」

「…違うのか?」

「…は…っ。

違うに決まって…。
私をどんな女だと…」

相変わらず冷たい表情の喬に、うまく言葉を繋げられない雪美は、次第に潤んでくる瞳をどうする事もできない。

そりゃ…濠への気持ちを解放した途端に喬に抱かれるようになって。
自分でもその展開についていけない微妙なスピード感に戸惑いもあるけれど。

「私は…喬だから…なのに。
喬は喬としてしか見てないのに。

濠とは…違う」

どうにかそれだけを口にできた。
濠の結婚を、こうして穏やかに迎えられたのも、突然の出会いがあったから。
喬という存在があったから。

たとえ愛してくれてなくても、大人になってから初めてに近い感情に素直に従う喜びや幸せが、切なさ以上に雪美を喬へと向かわせた。

「私は…喬が…大切だから…側にいたのに…。

私を見てなかったのは喬でしょ…?

透子さんを抱きたかったんでしょ?
透子さんが…欲しかったんでしょ?」

雪美の思いつめたような声に、喬は顔を歪めた。
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