絶対、逃がさない!(短編)
 陽菜が手をのばす。

 おれはひょいっとかわして、走った。

 陽菜が嫌いな高いところ、滑り台の上に逃げた。



「返して! 光くん」



 下から、泣き声で陽菜が言う。

 高いところは苦手なんだ、陽菜は。年少のときに、おれがジャングルジムに置き去りにしたせいなのは間違いないが。

 上から顔をだして見てみると、陽菜はほんとに泣いてた。

 大きな瞳から、ぽろぽろぽろぽろ、涙が零れ落ちてた。

 ずきんと胸の奥でなにかが痛みを訴えたが、おれはそれを無視した。



「いやだね! 絶対、返さない!」


< 10 / 35 >

この作品をシェア

pagetop