蝉時雨








「‥‥‥‥‥‥」


小宮の表札の下がる柱から
ひょこっと顔を出す。
バレないようにしながら
玄関と睨めっこしてはまた柱に隠れる。

意を決して京介の家に来たものの、
あと一歩が踏みだせず
さっきからずっとこの状態だ。







「‥‥‥あぁ~もうっ!!」

いつもなら何の気なしに向かっていける
玄関までの距離がやけにもどかしくて、
一人馬鹿みたいに意識してしまっている
自分にも腹が立って頭を抱えてしゃがみこむ。 

さっきから、ちらちらと
通行人からの痛い視線を感じるけど、
それは仕方ない。
だって端から見たら菜々子はただの変質者だ。







「‥‥‥‥よしっ!!
10数えたら行こう!!」

と決心したことを一人呟いて、
小さくガッツポーズをつくる。
そして大きく深呼吸をして
自分に言い聞かすようにカウントを始めた。





「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1‥‥!」

カウントがゼロに近づくほどに
踏み出す方の足に力がこもる。



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