蝉時雨
*
「‥‥‥‥‥‥」
小宮の表札の下がる柱から
ひょこっと顔を出す。
バレないようにしながら
玄関と睨めっこしてはまた柱に隠れる。
意を決して京介の家に来たものの、
あと一歩が踏みだせず
さっきからずっとこの状態だ。
「‥‥‥あぁ~もうっ!!」
いつもなら何の気なしに向かっていける
玄関までの距離がやけにもどかしくて、
一人馬鹿みたいに意識してしまっている
自分にも腹が立って頭を抱えてしゃがみこむ。
さっきから、ちらちらと
通行人からの痛い視線を感じるけど、
それは仕方ない。
だって端から見たら菜々子はただの変質者だ。
「‥‥‥‥よしっ!!
10数えたら行こう!!」
と決心したことを一人呟いて、
小さくガッツポーズをつくる。
そして大きく深呼吸をして
自分に言い聞かすようにカウントを始めた。
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1‥‥!」
カウントがゼロに近づくほどに
踏み出す方の足に力がこもる。