蝉時雨
「あら。
なーんだ、菜々ちゃんじゃない!」
「っひ?!」
ゼロをカウントして
立ち上がろうとしたのと同時に、
視界いっぱいに人の顔が広がった。
あまりの驚きに心臓が飛び出そうなくらい
大きく跳ねて、声にならない悲鳴をあげる。
「っの、典子おばちゃん!!」
「おはよう、菜々ちゃん。
洗濯物干してたら、さっきから門の辺りで
誰か家を覗いてるもんだから
びっくりしたわよ~」
そう言って典子おばちゃんは
あはは、と楽しそうに笑い声をあげた。
「びっくりさせちゃってごめんね」
「ううん。でもどうしたの?
こんなところで。
はやくあがってらっしゃい」
「え?あぁ‥‥ちょっと」
おばちゃんの質問に上手い答えが
見つからなくて、視線を泳がせる。
京介とキスしたから
恥ずかしくて立ち往生してました、
だなんて言えるはずがない。
「えっと‥‥あ、これ!!
京介に届け物っ」
結局うまい言い訳は思いつかず、
逃げるように、慌ててかばんから
冊子を取り出して見せた。