蝉時雨
「‥‥帰ってきてからずっと何してたの?」
「ん?適当にごろごろしてたよ」
「ふうん?テレビつけたらいいのに」
赤いランプの灯ったテレビを見ながら
不思議そうにたずねた私に、
涼ちゃんがにかっと笑顔を作る。
「菜々子があんまり
気持ち良さそうに寝てたからさ。
起こしちゃ悪いと思って」
「えっ!そんなの気にしなくていいのに!
ごめんね。退屈だったでしょう?」
涼ちゃんに気を使わせてしまったことを
申し訳なく思いながらも
そのことへの嬉しさのほうが大きくて、
思わずにやけそうになるのを堪えた。
「いや、そんなことはないよ。
京介から借りた漫画とか読んでたし」
そう言って、何冊か積み上げられた
雑誌や漫画の山を軽く叩く。
その中の一冊に目がとまった瞬間、
さっきまで嬉しさで
いっぱいだったはずの気持ちは
一気に悲しみに変わってしまった。