蝉時雨
「飲み物とってくるけど、何がいい?
白桃カルピスもあるよ」
「ありがとう。
うーん、麦茶にしようかな」
「お、珍しいな。りょーかい。
ちょっと待っててな」
そういって、飲みかけのグラスを持って
涼ちゃんはキッチンに向かう。
「ごめんね。お願いします」
その背中に向かってお礼を言うと、
テレビにうつる楽しげな芸人達に
視線を移した。
そしてぼんやりと、
さっき二階で聞いた涼ちゃんの声を
思い起こしていた。
電話の相手は誰だったんだろう。
めったに聞くことなんてない
怒ったような、荒い涼ちゃんの声。
菜々子には向けられたことのない感情。
菜々子の知らない涼ちゃん。
向けた視線の先では、
女優さんが芸人のおふざけに
綺麗な笑みを浮かべ、楽しげに喋っている。
「‥‥‥ねー、涼ちゃん」
私はそのまま視線をうつすことなく
キッチンにいる涼ちゃんに向かって
口を開いた。