Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~
後にいた青年が卑猥な手つきでサラの胸に触れようとしたその時───。

「ひ、ぎゃああぁあああああぁあぁあああぁぁああぁぁぁ!!!!!!!!!」

サラの胸に触れようとした十本の指は、触れる直前に全てかつてない方向に折れ曲がった。
正確に言うと、指の第一から第二関節が完全に砕け散っていた。

サラは悲鳴をあげている青年と未だ上半身裸で下まで脱ごうとして、あっけらかんとしていた青年を無視してホテルの部屋から飛び出していった。

───何をやっているのだろうか。自分は。

走りながら自暴自棄になっていた自分を恥じる。

一瞬、後から手をまわされた時を、あの温もりと重ねてしまった。

───ダメだ!そんなのは絶対ダメだ!
自分に触れていい男はこの世でただ一人だ。

あの優しさを。
あの温もりを。

代用などできない。できるはずがない。

失ったからといって自己をごまかし、偽りの安らぎを求めるのは間違っている。そんなものは今まで自分を想ってくれた人達への裏切りに他ならない。



今思えば、八つ当たりな部分もあったにせよ、ここに来るまでの自分は本当にどうかしていた。

虚しいだけなのに。

自分によって不幸になる人が増えるだけなのに。

安楽を求めてしまった。
解放されたいと願ってしまった

そんなのもう、とっくの昔に答は決まっていたのに───。

袋小路にしゃがんだサラは、ホームレスが飲んだのであろう酒瓶を手に取って眼で割り、割った破片を右手に持ち、左手首に押し付けた。

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