Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~
特訓に特訓を重ね、少しずつサラは歌が上手くなっていった。

そんなある日、サラは何となく寄ったCD屋で一枚のシングルCDを手に取る。

曲名は『Shower The Moon Light』

聞いたことのない日本人女性が歌った歌。

題名が気に入ったのが最大の理由かもしれないが、気付くとサラはそのCDを購入していた。

ストリクトはプレーヤーを持っていないので、CDは大学のカラオケサークルの部室で聴かなければならない。

夜、人気の無くなった大学の部室で一人、電気は点けない方がムードが出るので、カーテンを開けてCDをプレーヤーにセット。

窓からやわらかな月光が差し込んでいる。

曲が始まった。

静かなメロディとともに低い、艶やかな歌声が部室に広がり始める。

甘くせつないトーン。

緩やかなボリュームは今夜のような月夜を思い描くように拡散していく。

部屋全体が歌に包まれた頃、サラは別の場所にいた。

そこは、周囲を森に囲まれた湖。

気付けば、湖のほとりにいた。

半径二十メートルほどの湖は、上空に浮かぶ満ちた月を静かな波立つ湖面に反映させている。

知らず、サラは歩を進めていた。

膝を落としてかがみ、両手を湖の中に入れる。
ひやりとした感触。
水面は、手を入れた振動に新たな孤を描きだす。

そのままゆっくりと、湖の水を掬い上げた。
両手の水には夜空の月。

頭より上に、夜空に捧げるように両手を挙げる。

指の隙間から水が、キラキラ月を反射しながら零れ落ちていく。

腕をつたう水滴はそれほど不愉快でなく、むしろ心地よい。

湖へと還っていく水は不思議と音をたてず、ただ静かに流れ落ちていく。

両手から月が完全に消えた後、今度はサラの瞳から雫が流れ始めた。

……サラは思い出していた。

以前にもこんなことがあったのだと。

あれはハリーがまだ生きていた頃のこと───。
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