Hateful eyes ~憎しみに満ちた眼~
その歩く姿さえも、まるで一流の歌手のようだった。

変わらず止まない、むしろヒートアップしていく歓声。

しかし落ち着いてそうな外見とは裏腹に、サラの心臓は激しく脈打っている。

体中の血液が沸騰する。

体が落ち着いてくれない。

頭の中が真っ白になる。

何もわからない。

私は今どこにいるのだろう。

わからない。

何も聞こえない。

何も見えない。

無理だ。

私には、無理、だ。

肩をたたかれたことで我にかえる。
振り返るとサークルの皆がサラを見つめていた。
皆笑っている。

そこで───。

ようやく、たったそれだけで、自分でも驚くほどすんなり落ち着くことができた。

サラは皆に向かってわずかに頷くと、観客の方に向き直りスタンドマイクに片手をかける。

それだけ───。
ただそれだけの動作で会場は水を打ったようにシンと静まり返った。

空は未だ雲で覆われている。
秋の夜の風が仄かに頬に触れる。

それが妙に───心地良かった。

ジェシカがピアノを弾き始め、曲が始まる。
ステージ横には英語とドイツ語に翻訳された歌詞カードを高々と掲げる運営委員。

麗しい日本語で。会場に美しい歌声が流れ始めた。
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