ONLOOKER Ⅲ
「な……なに、言ってるんですか?」
声が震えているのは、怒りか、焦りか、どちらにしろ動揺しているのは確かだ。
口許だけの笑みも、笑いというよりは、ひきつった表情筋が口角をわずかにつり上げているだけのものだ。
一方の直姫は、浮かべていた一切の表情を消していた。
彼女が夏生に教わったのは、他人に好感を与える微笑み方や仕草だけではない。
「動機はなんですか? 紅先輩への嫉妬?」
「ちょっと、いきなり失礼じゃないですか」
「今朝の脅迫状からすると……やっぱり准乃介先輩絡みって考えるのが妥当ですかね」
「……っあなたね、」
「で、やったのかやってないのか、どっちなんですか」
たたみかけるような物言いは、相手の平静を乱すため。
顔色や声色から感情を殺すのも、そうだ。
夏生の常套手段を、直姫は忠実に再現しているようだった。
実際、なんのぶれもない瞳をまっすぐに向けられた里田は、言葉を詰まらせる。
「……濡れ衣よ。それだけで、私を犯人だって決めつけるのは、おかしいじゃない」
それでもなんとか、眉を歪ませて言い返した。
里田の言うことは、紛れもなく正論だ。
動機だけでは、犯人だと断定できる理由にはならない。
物的証拠が重要なのだ。
だが、直姫は言った。
「一昨日の放課後、中庭に紅先輩の悲鳴が上がったとき。里田さん、どこにいましたか?」
「どこって……、家に帰りました」
「いえ、あなたは北校舎にいましたよね。さっき言ってた、悲鳴を聞いた人がいるって、あれ、里田さんのことでしょう?」
「……違うわ」
「へぇ、否定するんですね……」
「だって違うもの」
「嘘吐かないでくださいよ。放課後あなたの姿を見たっていう人もいるんです」