ONLOOKER Ⅲ


「あ……そう、忘れてたわ、一昨日はペンケースを忘れて、一度教室に取りに戻ったんです」
「本当に?」
「本当です」
「紅先輩が悲鳴を上げた時、なにしてたんですか?」
「だから、その時間なら、ペンケースを取りに戻って、教室を出るところだったって」
「その時間?」
「え?」


直姫の問い詰めるような口調が、一瞬ぴたりとやんだ。
里田は、拍子抜けしたように聞き返す。
直姫は、小さく眉を動かした。


「その時間っていつですか?」
「は? だから」
「自分は、紅先輩がいつ悲鳴を上げたかなんて、一言も言ってないんですが。知ってるんですね、“その時間”が五時前後だって」
「それは……」
「それなのに、その時校舎にいたのに、あくまであなたは、紅先輩の悲鳴は聞こえなかったと?」


いつもならばまずありえないほど、直姫は饒舌だった。
話し慣れていない感じはするが、直姫の隣で優雅にコーヒーカップを傾ける彼を、なんとなく彷彿とさせる。

口だけはいつになく動かしながら表情は普段のままであることに、不気味さを感じながら、真琴はいまだ彼女の狙いを読めずにいた。
そこまで質問で追い詰めて、どうする気なのだろうか、と。

一昨日の放課後に里田が北校舎にいたことを認めさせたいのだろう、ということはわかるものの、今のところ、相手に隙らしい隙はない。
直姫の表情が余裕たっぷりなためになにを考えているのかわからないが、もしかして、これは苦戦しているのだろうか。
直姫は小さく首を傾げた。

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