ONLOOKER Ⅲ
「すみません、答えづらいこと聞いて。たまたま聞こえなかっただけかもしれないですよね」
「え、あ、はい……」
「それじゃあ、質問を変えますね」
その瞬間わずかだけ、直姫の眦に愉快そうな色が浮かんだことに、誰も気づかなかった。
「そんなに、右上が気になりますか?」
「、えっ?」
聞き取れなかったのではないだろう。
言葉の意味が理解できなかったのかもしれない。
これまでの会話の流れから、その質問をそこに持ってくる理由が、さっぱり分からなかった。
里田麻奈美は、際立って長くはないが量の多い睫毛(それのせいか、彼女の顔立ちは極めて幼い)を瞬かせた。
直姫はそんな彼女と目を合わせてから、自分から見て左上にちらりと視線を流してみせた。
当然だが、そこには天井があるだけで、特になにもない。
壁との境に、木製の繊細な飾りが挟まれているだけだ。
「さっきからずっとちらちら見てますけど。そんなに気になりますか?」
「え……いや、別にそういうわけじゃ」
「あ。ねぇ、知ってます? 人って嘘を吐く時、無意識に右上を見ちゃうらしいですよ」
その時が、里田が生徒会室へ来てから直姫が、初めて笑みを浮かべた瞬間だった。
里田はひくりと頬を引きつらせる。
「な……、そんなの、」
「ほんとですって、脳科学的に証明されてるそうですよ。里田さんここ来てから、何回右上見たでしょうね……」
直姫にしては珍しい、少しだけおどけたような口調と、愉しげに歪む目許。
見てはいけないものを見てしまったような、なんとも言えない表情を浮かべる傍観者たちが感じたのは、既視感だ。
誰に似ているのかなんて、言うまでもない。
思わず夏生を横目で見てしまった聖の視線は、いわば代弁であった。