ONLOOKER Ⅲ
「扉の前に居座られたらさすがに迷惑だからねー」
「……居座られたんですか」
「ごめんね直姫くん……なんかバカどもがどうしても話があるっていうのよ」
「あは、ほんっと馬鹿だよねぇ」
「ちょ、准乃介……、」
違和感の正体に、それほど悩む必要はなかった。
ただ単に、准乃介が不機嫌なのだ。
しかしそれは彼だからこそ、不思議で仕方がない。
「え、えと、准乃介先輩……?」
「なに?」
「え、いや……な、なにか怒って」
「別にー」
そう言った彼の、非の打ち所のない、色気すら感じさせる、柔和な笑みの。
いつもならば穏やかに細められる切れ長のたれ目が、目だけが、奥の方ではほんの少しも笑っていないことに、直姫は気付いてしまった。
そしてこの笑い方を、どこかで見たことがあることにも。
(……サトちゃんが来た時……と、)
同じ、だった。
紅の美貌を前にして低レベルと言い放った里吉に向かって、にこりと笑いかけた、あの時と。
頬の筋肉が引き攣るのを感じる。
(……すげー怒ってる……!)
それほどまでに、彼らは厄介なのだろうか。
怒りをほぼあらわにしない彼が、はじめて直姫の前で吐く毒にも、一抹の恐ろしさを感じる。
背筋に冷たいものが走った気がした。
(か、帰りたい)