ONLOOKER Ⅲ
直姫が事情を聞かれるたびに話してまわるその裏に、どんな噂が潜んでいるかと、犯人は気が気でないはずだ。
放課後中庭でのことだとバレているかもしれないし、それが何者かによって上から落とされたものだということも、皆が知っているのかもしれない。
もしかしたら、誰の仕業なのかも、もう噂されているのかも。
それに怖じ気づいて嫌がらせが止んでくれれば、それはそれで良い。
もし止まなかったとしても、嫌がらせを続ければ続けるほど、本校きっての頭脳が七つも集まった集団に、手掛かりを与え続けることになる。
どちらにしても勝算がそれなりにあるからこその、賭けのようなものだった。
「大怪我じゃない……痛む?」
「平気ですよ。痛みには強い方ですし」
「かわいそう……お大事にね」
「ありがとうございます」
そう言って別れた小さな背中を眺め、放課後までには三年生の間でも知れ渡っているだろうと予想して、直姫は歩を進めた。
* *
「おぉ、直姫。どうだ、調子は?」
紅にいつもの溌剌さがあまりないのは、直姫の怪我や、大怪我のふりが、自分のためだという負い目を感じているせいだろうか。
肩を少しだけ上げて小首を傾げて、直姫は答えた。
「もうだいぶ広まってきてると思います。先輩の方はどうですか?」
「私は、その……大丈夫だ」
「止んだわけではないんですね……?」
「……まだ、直姫の怪我のことを知らないのかもしれない」