ONLOOKER Ⅲ

 * *

「直姫くんっ!? どうしたのそれ!」


休み時間、北校舎の廊下ですれ違って目を見張ったのは、生徒会外では唯一直姫が女であることを知る、東千佐都だった。

どうやら、男運が悪いぶん過去の失恋を引き摺らないたち、というのは本当のようだ。
あれ以来、直姫が彼女の幼馴染みたちに絡まれそうになった時に助けてくれたり、校内で鉢合わせればこうして言葉を交わしたりもするようになった。
良き友人とまではいかなくても、あまり詮索もせずに理解を示してくれる人間が一人でも多くいるというのは、直姫にとっても少し気分が軽くなる。

千佐都は、悲痛な表情を浮かべて直姫に駆け寄ってきた。
目線はもちろん、直姫の腕だ。

夏生に助言された方法は少しずつ功を奏し、四時間目が終わる頃には生徒の多くが、『生徒会のあの一年生が大怪我したらしい』という噂を口にするようになっていた。
あの、という言葉にどんな意味が含まれているのかは、今のところ考えないようにしている。


「実は……昨日、割れた鉢植えの破片で。うっかりしてました」


それが、夏生に入れ知恵された言い訳だ。

肝心な部分は濁しているが、聞く人が聞けばすぐにぴんとくるような、曖昧な言い方。
重要なのは、『昨日』『鉢植えの破片』という言葉だ。
人によっては、自分で割ってしまったとも取れるし、そうでないとも取れる。
どこでとも、昨日のどの時間とも、明言はしない。

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