ONLOOKER Ⅲ
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はじめにその美貌に浮かんだのは、「またか……」とでも言うような、呆れと諦めと落胆がない交ぜになったような、そんな表情だった。
周りに人がいないことを確認して(こんな早朝の学校に、彼女のように部活動の朝練で来た生徒以外の人なんていないことは、わかっているのだが)、手にした封筒を手早く開ける。
封筒の端を乱暴に破り取る指先の持ち主が眉を寄せたのは、苛立ちのせいだ。
しかし、その中身がぱらぱらと足許に零れ落ちた時、悪い意味で心臓が高鳴った。
胸元の太い血管にカミソリを入れられたみたいに、ぞくりと大きく鼓動が鳴る。
濡れたような漆黒の瞳が、見開かれて、きゅうと小さくなった。
喉がひきつったような音を出して、思わず封筒を取り落とす。
柔らかなからすば色は、どう考えても彼女のものと見紛えそうなほど似ていたし、恐らく犯人の狙いもまさにそこだ。
これは、ついに脅迫に出た、ということなのだろうか。
動き方を忘れたように、ただ俯いて足元を凝視し続ける彼女の背に、かけられた声があった。
* *
准乃介は、こらえることもなく大きな欠伸をしながら、噴水の横を通った。
紅が剣道部の朝練がある日だというから、合わせてずいぶん早く家を出てみたのだ。
昨日のうちに、急がないなら南校舎のアーチで待っていて、と伝えてあったが、門を通った時にその姿はなかった。
絶対に人を待たせることのない彼女のことだ。先に行ったのだろう。
教室で待つか、道場を覗きにでも行くか、なんて考えながら、眠気の残る足を引き摺って歩いていたのだが、昇降口へ来た時、准乃介は足を止めた。
まさに思っていた人物が、背中を向けて、そこに立っていたのだ。
「……紅?」
後ろ姿に声をかけたら、その肩が、びっくりするくらいに跳ねた。
ちょうどよかった、と言おうとした口を、閉じる。