インサイド
情緒的になど先生に言われるたびに、面倒くさいと思っていた今までの自分。

曲の表すべきところを考えるなど、弾くこととは別のものだと思ってきた。

 私は、私が弾くのだから、私の手が弾けていればいいじゃないの。

楽譜どおりに指が走れば、誰だって褒めてくれたのだ。

褒められることが嬉しくて、自慢できるものがあることが誇らしく、続けてきたピアノだった。

音大の付属高校に入れば、かっこいいだろうとも思った。

もちろん、好きだから弾きたいという気持ちもある。

好きなものを弾けるだけの力があるという、自慢に類する自信もあった。

 裏を返せば、弾けないよできないよと、嘆きたくはなかったということ。好き嫌いと言うよりは、危うきに近寄らず。

嫌な思いをしたくない、そんな理由でずっと、得意の領域から出ようとしなかったということ――なのかもしれない。


 『千帆ちゃんのピアノが弾けるところをちゃんと目指した方が』
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