インサイド
 裕明は見抜いただろう。陽気なばかりの、特技ばかりの演奏を。

遥のように、『本当』に向かえたら。

動かす、ではなく、奏でられたなら。上手、ではなく、感動してもらえるような演奏……。

「遥くんて、国語得意?」

「なに急に。国語ぉ? 理数よりは人並みだと思うけど。なにそれ」

「雰囲気雰囲気。文学だなぁと思って」

「意味がいまいち不明なんですけど」

「まぁ、とにかく私は、練習しないとね」

 手を離せばまた丸まる教本を胸に抱えながら、吹っ切れたように千帆は言っていた。

遥の横顔がふと揺れる。ピアノは笑顔を映していた。

「なんか久しぶりに聞いた、練習しないとって。入学してから練習ばっかり当たり前にしてるんだよね、オレたち」

「ほんとだ」
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