星の船 ー淡い月の鍵ー
別れのトキ

  ♢

「あの黒い男はまだ降りてこないな、流羽」  
 
柊が改札口を眺め、そう呟く。


「流羽?どうした?」

返事ない流羽の顔を、柊が覗き込む。

「ーーえっ!あ、ううん…。何でもないよ」

慌てて両手を振り、応える。


昼過ぎ、寝台列車〝星の船〟は
定刻通り、終着駅〝ジュ・ノン〟に着いた。


2人は駅前の噴水台に座り、改札を通る人々を見ながら待っていた。

あの黒い男が現れるのを。


「何だ?元気ないな。ーーあっ、分かった、お腹空いたんだろ?昼食まだだったもんな」

柊は立ち上がり、大きく伸びをすると、

「例の黒い男はまだこないし、今のうちに何か昼食買って来るよ。流羽はそこで待ってて」

柊は縹色の背負い鞄を肩に掛け、駆け出す。
遺された流羽は、はぁ…と大きな溜め息。


(…どうしよう…、せっかく柊くんが私のためにしてくれた旅行なのに、
なんか、色々気になって…気になってー)


モヤモヤした感情が、どんどん溢れてくる。


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