冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 あの、と彼の背中に声をかけようとした時、ようやくカイトが足を止める。

 車の目の前だ。

 腕も離される。

 車のロックが解除される音がした。

 リモコンなのだろう。カギを鳴らしていたので。

 その場に立ちつくしているメイを置いて、彼は運転席側に近付いていく。
 ドアを開ける。

 一度、その中に沈みかけた身体が、もう一度戻ってきて彼女を見た。

 何をぼーっと突っ立ってるんだ。

 そんな目の色であることがすぐに分かったけれども、メイはオロオロしたままだった。

 まだ、何も心の中で決着がついていないのだ。

 自分が作る食事についても、外食についても。

 カイトの身体が沈んだ。

 ドアがバタンと閉ざされる。
 ほとんど間もなく、エンジンがかかった。

 このまま乗り込まなければ、自分が置いて行かれるような気がして慌てる。

 ど、ど、どうしよう。

 乗るのは簡単だ。

 けれども、それは彼と外食を一緒にするということであり、同じ車内の空間を共有するということでもあった。

 ガチャッ。

 すると、今度は内側から助手席のドアが開く。

 身を乗り出すように、カイトが中からイラ立った目で自分を見上げていた。

「乗れ」

 命令形だ。

 これで乗らないと、また怒られて、とんでもないことになりそうな予感のしたメイは、慌ててそのドアに近付いた。

 ドキドキした胸を押さえつつ、黙って乗り込む。

 ふかっとしたシートの感触に抱き留められて、一瞬ビックリする。

 免許も持っていないし、こんなに柔らかいシートの車には乗ったことがなかった。

 パタン。

 静かにドアを閉めようとしたら、思い切り半ドアになってしまってまた焦る。

 いつ隣から、怒鳴り声が飛んでくるとも限らないのだ。

 もう一回ドアをちょっと開けて―― 今度はちゃんと閉めることが出来た。

 そっと、運転席の方を見る。

 車は動き出した。

 見えているのは、カイトの不機嫌そうな、でもいつもの横顔だった。
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