冬うらら~猫と起爆スイッチ~

 シーン。

 車内は静かだった。

 カーラジオもついていないし、カイトもしゃべらないのだ。

 そんな空気の中、まだ自分の胸の鼓動さえも制御できないメイが、ペラペラとしゃべり出せるハズもない。

 空気が重く感じられた。

 車は本道に出て、スムースに流れ始める。

 昨日見覚えた景色が、もういちど復習のようにメイの目の前で流れていくが、頭に入るはずもなかった。

 こんなに近い距離で、しかも閉ざされた空間で―― カイトと2人きりなのである。

 ちょっと手を伸ばせば、触れることなんか簡単すぎる距離。

 そう思った時、彼の手がにゅっと伸びてきてビックリした。

 まさか、いまの彼女の心を読んだのでは、と一瞬思ったがそんなハズはなかった。

 カイトは左手でオーディオのパネルに触れたのだ。

 ピッ、ピッと電子音を鳴らす指先。

 押し寄せるような音の波が、後ろの方から伝わってくる。

 カイトもこの静かさに耐えられないのか、ラジオをつけたのだ。

 もしかしたら、いつも聞くのが習慣なだけかもしれないが。

 洋楽だ。

 それも、メイが聞いたことのある、有名なクリスマスソングだった。

 もう、12月なのだ。

 最初に来た時は、まだ11月だったし、クリスマスとかそんなレベルの思考が出来る状態ではなかった。

 けれども、着実にカイトの側で時間が過ぎていくのが分かる。
 まだ1週間でも、それをこんな歌で実感してしまった。

 ちょうど終わりの方だったらしく、歌はすぐに終わってしまった。

 パーソナリティの女性が、クリスマスの予定だの、今年のクリスマスの傾向だの楽しそうな声でしゃべりだす。

 すると、カイトの手がにゅっと伸びて、またピピッとパネルを変更して―― 結局、ラジオを切ってしまった。

 気に入らなかったのだろう。

 限りなく静かになる。

 ちょこんと助手席に座ったままのメイは、一人で考え込む時間を与えられてしまったのだ。
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