冬うらら~猫と起爆スイッチ~

「おい」

 しかし、カイトの方はようやくしゃべる気になったのか、短いその一言で呼ばれる。

 顔を向けると、彼は交差点の中で大きくハンドルを左に切ろうとしていた。

 メイの身体が、運転席の方に持っていかれそうになる。

 慌てて遠心力に逆らうように我慢した。

「食いたいもん…言え」

 ぶっきらぼうで、機嫌が悪そうで。

 そういうことを聞くことすら、全然慣れてない舌さばき。

「え…あっ…」

 いきなりの質問に、さらっとこたえられるはずもない。

 しかも、その質問の内容は、かなり難しいものだったのだ。

 友人関係との外食だって、どこにしようかあれやこれや迷ってしまう彼女に、食べたいものの指定をさせるなんて大変である。

 だから、世界最強の答えを口にしようとした。ゴマのように、振りかければ決着する魔法の言葉である。

「な…」

 メイは口を開けた。

「何でもいいは、ナシだ」

 しかし、全部言い切るのは、カイトの方が早かった。

 彼もその世界最強の答えの存在を、ちゃんと知っていたのである。

 そんなぁ。

 頭の中を、いろんな料理が巡る。

 嫌いなものはないし、何だって食べられる。だから、本当に何でもいいのだ。
< 403 / 911 >

この作品をシェア

pagetop