冬うらら~猫と起爆スイッチ~
□88
 メイの指した先にあったのは―― ファミリーレストランだった。

 カイトは、当然のようにムッとする。

 当たり前だ。

 彼女ときたら、またもあの服と同じ過ちを犯す気なのか。

 カイトの気持ちなど、ちっとも理解していないのだということが分かった。

 食いたいものを言えとまで。

 あのカイトが女と一緒に車で出かけ、あまつさえそんなことまで聞いたというのに、メイときたら、どうでもいいようなファミレスなどを指したのである。

 腹立たしい以外の何者でもなかった。

 今日は、もう何も仕事をさせない意味で外食に連れ出したのだ。

 それなのに、行き先がその店とは―― 彼を甲斐性なしにする気なのか。

 彼女の食べたいものを優先しようと思っていたのだが、まったくもって話にならない。

 カイトは、その申し出を聞く気にもならなかった。
 絶対に、それが本心だとは思えなかったからである。

 普通なら。

 たとえば、友人同士だったとしよう。

 それ以上の関係は、いまのカイトは考えたくなかったし、実際考えられなかったので、シミュレーションは友人だ。

 もしも、友人同士であったとしたら、メイはどう答えただろうか。

 悩むかもしれない。

 あれこれ相談するかもしれない―― しかし、いきなりそこらにあるファミレスを指して、『そこがいい』などと言い出すことだけは、ないように思えたのだ。

 とてもじゃないが、味を楽しみに行くところとは思えなかった。
< 405 / 911 >

この作品をシェア

pagetop